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宇都宮地方裁判所 平成8年(行ウ)1号 判決

原告

宮沢昭夫

被告

矢板市議会

右代表者議長

栗原文弥

右訴訟代理人弁護士

舘野明

事実及び理由

第一  請求

被告が平成七年一〇月九日付けで原告に対してした第二一五回矢板市議会定例会の文教厚生常任委員会の記録の閲覧を許可しないこととした処分はこれを取り消す。

第二  事案の概要

本件は、原告が、矢板市議会の常任委員会の会議録の閲覧を請求したところ、これを不許可とされたため、同市議会を被告として、右不許可の違法を主張し、その取消しを求めた訴訟である。

一  前提となる事実(当事者間に争いのない事実を含む。認定事実には証拠を付する。)

1  原告は、平成七年九月二六日、被告に対し、同日から行われた第二一五回矢板市議会定例会の文教厚生常任委員会の記録(以下「本件記録」という。)の閲覧を請求した。これに対し、被告は、同年一〇月九日付けで、原告に対し、本件記録の閲覧を許可しない(以下「本件不許可」という。)旨の通知をした(当事者間に争いがない)。

〔中略〕

3  矢板市議会委員会条例(昭和四二年四月一日条例第一二号)は、委員会の公開に関し、右条例一五条一項で委員会の傍聴について、「委員会は、議員のほか、委員長の許可を得た者が傍聴することができる。」と規定し、委員会の会議録について、同二五条で記録の作成、保管について定めているが、右記録の閲覧に関する定めはなく、同二六条で委員会に関するその他の定めを会議規則に委任している(〔証拠略〕)。その矢板市議会会議規則(〔証拠略〕)は、会議について定めた第一章の中の七八条ないし八二条で会議録について規定しているが、委員会について定めた第二章中には、会議録について定めた規定は存しない。

〔中略〕

第三  当裁判所の判断

一  原告は、本件不許可を違法であると主張して、その取消しを求めているが、その前提として、そもそも本件不許可が取消訴訟の対象となる行政処分といえるか否かを検討する必要がある。すなわち、行政事件訴訟法が取消訴訟の対象として定めている「処分」とは、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(同法三条二項)であって、行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するのではなく、行政庁がその優越的な地位に基づき権力的な意思活動としてするような行為であって、個人の具体的権利ないし法的地位に直接の影響を及ぼす法律効果を有するものと解される。したがって、まず本件不許可が原告の具体的権利ないし法的地位に直接の影響を及ぼす法律効果を有するものであるか否かについて以下検討する。

1  本件不許可は、市議会の常任委員会の会議録の閲覧請求に対してされたものであるところ、地方自治法は、会議録に関して、「調製」等について定めた一二三条を置くのみで、「閲覧」については、本会議であると委員会であるとを問わず、何ら規定を置いていない。また、同法は、一一一条において、委員会に関する必要な事項の定めを条例に委任しており、これを受けた矢板市議会委員会条例においても、前記第二の一3のとおり、委員会記録の作成及び保管に関する規定を有するのみで、「閲覧」についての定めは存せず、右条例の委任を受けた矢板市議会会議規則においても、委員会記録についての定めはない。(この点について、原告は、右規則七九条を、委員会の会議録の閲覧の根拠として主張しているが、同条が委員会の章でなく会議の章に置かれていること、会議録に関して定めた他の条文の内容からも、これら会議録についての一連の規定が本会議の会議録について規定したものであることは明らかである。)

もっとも、地方自治法は、一一五条本文において、議会の会議を公開する旨を規定しており、もって住民が議事を監督する機会を確保して議事が公正に行われることを担保し、かつ、住民に審議状況を知らせることを可能ならしめている。そして、住民が議事を監督し、また、審議状況を知るうえでは、住民が会議を自由に傍聴し得ること(傍聴の自由)、報道機関が会議の状況を自由に報道し得ること(報道の自由)は勿論のこと、審議の過程及び結果が記録化された会議録を住民が自由に閲覧し得ること(会議録の公表)が必須のこととして要請される。したがって、会議の公開という場合には、当然に会議録の閲覧請求権の承認を含むのであり、会議の公開が定められている場合には、会議録の閲覧に関して法令上明文の規定を有しない場合であっても、会議録の閲覧請求権を有するものと解すべきである。

そこで、前述のとおり、委員会の会議録の閲覧については法令上明文の規定を有しないけれども、原告が本件記録の閲覧を請求する権利ないし法的地位を有するか否かを判断するにあたっては、委員会の会議の公開が法令により認められているかについて検討する必要がある。

2 前述のとおり、地方自治法一一五条本文は、「普通地方公共団体の議会の会議は、これを公開する。」旨を規定し、会議公開の原則を明記しているが、同条の「議会の会議」に常任委員会等委員会の会議を含むと解するのは、同法の構成上無理があるといわざるを得ない。すなわち、同法は、委員会に関して独立した第五節を設け、一〇九条ないし一一〇条の三箇条に明文の定めを置いたうえ、一一一条で「前三条に定めるものを除くほか、委員会に関し必要な事項は、条例でこれを定める。」と規定して右三箇条以外の委員会に関する事項を条例に委任しているのである。

また、国会において常任委員会が必置機関とされている(国会法四〇条、四一条等)のとは異なり、地方自治法は、地方議会においてはあくまで任意にこれを設置することができるとするにとどめているが(同法一〇九条一項)、これは、地方公共団体の規模には著しい差があり、その議会形態、審議の実態も千差万別であることから、一律に論じることは妥当でなく、各地方公共団体の実情に合わせて設置及び運営ができるように配慮した結果に他ならない。さらに、住民自治の精神からすれば、地方議会の運営は本会議を中心として行われるべきであるから、その本会議を住民の監視にかからしめることこそが重要だと考えられたのである。

それに引きかえ委員会は、議会の最終意思決定機関ではなく、議会の内部的下部機関であり、本会議における審議の予備的、専門的、技術的な審査機関の性質を有することから、議題について自由に質疑し、意見を述べる雰囲気が必要とされるが、公開することによって、傍聴人の監視による牽制を受けたり、真意が表明できにくくなるおそれがあり、特定グループによる審議圧力を招来することも可能性としては否定できない。また逆に、選挙民を意識して宣伝的言論がなされるようになっても、十分な審査又は調査が期待できず、委員会の所与の役割が果たせなくなる。さらに、委員会の審査又は調査の結果は委員会報告等で公開されることからしても、本会議に比して、委員会の会議を一般公開する必要性は劣後すると考える余地もある。

以上によれば、地方自治法の解釈としては、同法一一五条本文の会議公開の原則は、いわゆる本会議について規定したもので、委員会の会議の公開については、一律に定めることなく、各地方公共団体に対し、個々の実情に応じて適切な処置をするように、その選択に委ねたものと解するのが相当である。

3  そこで、本件で問題となっている被告の矢板市議会委員会条例についてみるに、前記第二の一3のとおり、委員会の傍聴について、一五条一項で「委員会は、議員のほか、委員長の許可を得た者が傍聴することができる。」と規定し、委員会を原則非公開としたうえ、議員以外の者については、委員長が議事整理権に基づいて、委員会の運営上差し支えないと考えた場合に、傍聴の許可を与え、その者についてのみ例外的に傍聴を許容することとしている(これを制限公開制と称することもある。)。したがって、矢板市においては、右条例の定めにより、委員会の会議公開の原則が採られていないことが明らかである。

そして、右条項が委員会の会議公開の原則を定めたものとはいえない以上、右条項の解釈から、委員会会議録の閲覧を請求する権利ないし法的地位を導き出すことはできず、他に委員会会議録の閲覧請求権を根拠付ける規定もないから、結局、原告は、本件記録を閲覧する権利ないし法的地位を有するものとはいえず、したがって、本件不許可によって、原告の権利ないし法的地位には何らの変動も生じていないものといわざるを得ない。

そうすると、本件不許可は、行政事件訴訟法三条二項所定の「処分」としての性質を有しないものというべきである。

4  なお、委員会の会議の公開については、地方自治法が想定したところとは異なり、現実には、地方議会においても、むしろ委員会において実質的な審議が行われているのが実情で、そのような実情の下では、委員会の会議を公開しなければ、会議公開の原則は無意味に帰することになりかねないという委員会の公開要請の論拠も傾聴に値する。

国会においても、国会法五二条一項が、委員会の原則非公開(制限公開制)を規定しているにもかかわらず、〔証拠略〕によれば、衆議院は、平成六年一二月一日、衆議院規則五八条を削除したうえ、平成七年六月六日、各党が議会制度協議会において委員会審議を原則公開に改めることを合意し、委員会会議録についても複写等を認めるに至っており、参議院についても、委員会会議録の閲覧、複写及び実費による頒布を実施していることが認められる。国会における議決案件が全国的、一般的性格を持ち、高度に専門化しているのに比して、地方議会の議決案件は、住民により身近で直接的な性格をもつことに鑑みれば、地方議会に対する公開の要請はより強いものともいい得る。そして、地方議会においても、委員会審議の公開に踏み切ったところも相当数あることが認められる(〔証拠略〕)。

前述のとおり、現行の地方自治法の解釈として、同法一一五条が一律に委員会の会議の公開を定めたものと解することはできないが、一方で、委員会公開の要請も時代の趨勢であり、いずれ法改正により解決するか、各地方公共団体において委員会条例に委員会の会議の公開を明記することで解決するか、今後の政治課題といえるであろう。

二  いずれにしても、原告の被告に対する本件不許可の取消しを求める訴えは、行政処分性の認められない行為を対象としてその取消しを求めるものであるから、その余の点について判断するまでもなく、不適法であるといわなければならない。

よって、本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 増山宏 裁判官 宮岡章 男澤聡子)

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